最近、企業のIT導入支援に携わる機会が続いています。そこで改めて感じていることは、「そもそも、何を実現したいのか?」に立ち返ることの大切さです。
「こんなことをしたい」「この業務を効率化したい」という要望をそのままIT導入につなげるのではなく、本当の課題は何なのか、その原因はどこにあるのか、本当にITで解決すべきことなのかを考える。そして、「これから会社をどうしていきたいですか?」という問いに戻ってきます。ITは目的ではなく、実現したい未来に向かうための手段です。
では、その「実現したい未来」は、組織の中で本当に共有されているのでしょうか? 経営理念やビジョンを掲げ、社員にも説明した。「うちの会社はここを目指します」と文字でも言葉でも伝えた。だから、みんな同じ方向を向いている……本当にそうでしょうか? 同じ言葉を聞いても、そこから思い描く景色は人によって違います。
ところで、複数のメトロノームが同期していく映像をご覧になったことがありますか?最初はバラバラのリズムで動いているメトロノーム。それを互いの振動が伝わる動く台の上に置くと、少しずつリズムが揃っていきます。これを見ると、組織も似ているなあと思うのです。社員一人ひとりには、それぞれの考え方や価値観があります。それを無理に同じにする必要はありません。
では、組織にとってメトロノームを乗せる「動く台」は何でしょう? 私は「対話」ではないかと思っています。
「私たちは何を実現したいの?」 「このビジョンをあなたはどう受け取っている?」 「お客様にどんな価値を届けたい?」 一度伝えて終わりではなく、何度も対話する。その中で、一人ひとりが描いている未来が少しずつ重なっていくのではないでしょうか。
今から10年ほど前、2016年11月にこのメルマガで「現場力」について書きました。その時、「人はそれぞれ固有のレンズを持っている」と書いています。同じ事実を見ても、それぞれの経験や価値観というレンズを通して見ている。だとすれば、ビジョンも同じだと思います。「伝えた」ことと、「同じ未来を見ている」ことは違うのです。
そして最近、私はこのことを「周波数」という視点からも考えるようになりました。「波長が合う」という言葉があります。以前は気が合っていた人と、いつの間にか目指す方向や大切にするものが変わり、何となく合わなくなった。そんな経験はありませんか?
組織も同じかもしれません。同じ会社にいても、本当に同じ未来を見ているとは限らない。だからこそ、対話が必要なのだと思います。そして、経営者がどこに意識を向け、どんな言葉を発しているのか。それは組織全体にも影響しているのではないでしょうか。
「人がいない」「時間がない」「だからできない」に意識を向けるのか。
それとも、「どんな会社にしたい?」「どうしたらできる?」に意識を向けるのか。意識を向ける先が変われば、目に入る情報が変わります。問いが変わり、選択が変わり、行動が変わる。その積み重ねが未来の現実をつくっていくのだと思います。
2017年から企業研修の中で、「日常の大半は無意識」であることや、「いま、ここ」に意識を向けることを扱ってきました。当たり前だと思っていたものも、意識を向けることで違って見えてきます。一人ひとりが違う個性を持ちながら、実現したい未来に意識を向け、対話を重ねていく。私はそんな状態を「組織の周波数が合っている」と捉えています。
では、その中でITはどんな役割を担うのでしょうか? 今、私たちは以前とは比べものにならないほど多くのことを「見える化」できるようになりました。売上や利益、原価、在庫、顧客の行動、社員の働き方。これまで経験や勘に頼っていたこともデータとして捉えられるようになり、さらにAIを使えば、大量のデータを解析し、傾向を見つけ、未来をシミュレーションすることもできます。経営に使える「見える世界」は、これからますます広がっていくでしょう。
では、それだけで経営はできるのでしょうか? 私は、そうではないと思っています。会社には、データだけでは捉えきれないものがあります。人と人との信頼関係。対話によって生まれるもの。一人ひとりが何に意識を向けているのか。組織がどんな状態にあるのか。そして、みんなが本当に同じ未来を見ているのか。
こうした「見えない世界」も、経営に大きな影響を与えているのではないでしょうか。
ここで大切なのは、「見えるものと見えないもの、どちらが大事か」という話ではありません。見える世界と、見えない世界を融合していく。データで現在地を知る。AIで分析し、未来をシミュレーションする。一方で、人と人が対話し、実現したい未来を共有し、そこに意識を向けていく。ITが進化すればするほど、この両方を経営に活かすことが大切になるのではないかと思っています。
どんなに精緻なデータがあっても、「どんな未来を実現したいのか」はデータが決めてくれるわけではありません。未来を決めるのは、人です。ITやAIによって「見える世界」を最大限に活用する。同時に、対話や意識、組織の状態という「見えない世界」も大切にする。ITと人。データと対話。見える世界と見えない世界。どちらかではなく、両方を活かしながら、実現したい未来へ向かっていく。
それが、これからの「ITと経営」のあり方の一つなのではないでしょうか。
さて、皆さんはITを使って、どんな未来を実現したいですか? そして、その未来を組織のみんなで見ていますか? この機会にこの問いをお届けします。
■執筆者プロフィール
中川 普巳重(文惠)(なかがわ ふみえ)
中小企業診断士、ITコーディネータ、スピリチュアルリーダー
Eメール fumie-na@k4.dion.ne.jp



